引き出しからコンビニで買ったマドレーヌを取り出して、小さく齧る。
ふんわりと口に広がるはちみつの甘さにホッとしながら教科書を眺めつつもうひとくち、と口を開けたその瞬間。

 

「あ、先生いいもん食ってんじゃん」

「きゃあっ!……は、一くん!」

 

聞き慣れた声が背後から聞こえて、悠里は思わず椅子の上で飛び上がる。
振り返るとすぐ後ろに立っていた一は意地の悪そうな顔で、

 

「いいのかよ?職員室でお菓子なんか食ってて。仮にも授業時間中だぜ?」

「そういう一くんも授業中じゃないの!こんなところで何してるのよ?」

「残念でした。オレは今の時間自習なの。葛城先生が休みだからさ」

 

得意げに笑う様子に、はたと本日の予定を思い出す。

 

「あ、そうだったわね」

「そーゆーこと。で、せっかくだから先生に補習してもらおうとわざわざ来てみたら………」

 

まさか南先生が職員室でこっそりおやつを食べていたなんて知らなかったぜ、と言いたげな目で
(そう見えているのだと悠里が勝手に思い込んでいるだけなのだが)自分を見下ろしてくる
生徒の視線に、彼女は観念したように唸ってからキッと背の高い一を見上げ、

 

「あ〜、もう、わかったわよ!」

「ぅぐッ!」

 

えい!とばかりに持っていた食べかけのマドレーヌをその口に突っ込んだ。
一瞬、一は何が起こったのか計りかねる。

Q1.先生が今オレの口に突っ込んだモノは何か?
A.ついさっきオレが職員室に入ってきた時に先生がオレの存在に気付かずに嬉々として食べていたおやつのマドレーヌ(市販)。

Q2.先生が食べていたおやつのマドレーヌ(既製品)はいくつあったか?
A.現在机の上に残っている包装紙と思しきビニール袋の数から類推して1個だった、はず。

Q3.では先生はおやつのマドレーヌ(コンビニにて購入)を食べたのか?
A.意地悪く現場を押さえてからからかってやろうと声を掛けたので、当然ひとくち齧る瞬間をオレ自身が目撃した。

 

ようするに、今までの解答を全て統合して導き出される答えは一つ。

―――――先生はひとくち齧ったマドレーヌをオレの口の中へ突っ込んだのだ。


(待て待て待て待て、ちょっと待て!!!)

 

などと内心で慌てたところで、とりあず口の中に入れられたものを今更吐き出すわけにもいかない。

もぐもぐもぐ……ごっくん。

為す術なく一が完全に飲み込んだのを見届けた後、悠里はしてやったりと満面の笑みを浮かべてこう言った。

 

「今ので一くんも共犯だからね。わたしがこっそりおやつを食べてたのは2人だけの秘密よ?」

「〜〜〜わ、わかった」

 

 

「  ナ イ シ ョ の ヒ ミ ツ  」

 

 

 

 

食べかけをもらって赤くなるハジメと全然気がつかない先生。
こういう無邪気な先生と純情なハジメがかなり萌えます・・・(笑)