「橘くんってさ、やっぱりバスケしてる時はかっこいいよね!」
「は?」
偶然後ろ姿を見かけた帰り道、剣之介はどうせ同じ場所に帰るんだし、とに声を掛けた。
そうして互いに他愛もないことを話していたら、彼女がポロリとこぼしたのがこの言葉だ。
「実は今日ね、大道具取りに体育館裏の倉庫まで行ったときにチラッと覗いたんだ。そしたらちょうど試合みたいな練習してて」
「……ああ」
確かに、今日は1、2年対抗のミニゲームをやった。
剣之介も試合に出ていたし、それなりに満足のいくプレイを出来たと思ってもいたけれど。
まさかそれを見られていたとは露知らず、なんとはなしに絶句した彼をよそに、は正面を向いたままにこにこと話を続けている。
「わたしが見たとき、橘くん相手のパスカットしてドリブルからノーマークでシュート決めちゃって!すんごいかっこよかったよ!!」
「………っス」
手放しで褒める、とかいうのは多分こういうことだろう。
「ただまぁ観てた女の子たちの悲鳴が凄くて、思わず耳ふさいじゃったけどね」
「…え、大丈夫スか?」
「平気平気、大声はお兄ちゃんで慣れてるから。でもホントに凄いよねぇ、あんな高いトコまで飛べるんだもん」
の口から自分のプレイ中の姿を聞いているうちに、全身の血がもの凄い勢いで顔をめがけて駆け昇ってくるようだった。
なんだかひどく居たたまれない気分で視線をそらしてみたり、でもどんな顔でそんなことを言っているのか気になってチラリと盗み見てみたり、そんな
自分に気づいて慌ててまたそらしてみたり。
一体何をしてるんだ俺はと苛立ちかけて、風に煽られた髪を払おうとした手がふと耳のあたりを掠めた。
―――――その、指先に触れた肌は、とても熱くて。
「橘くんどうかした?なんか、さっきから妙に静かだけど」
「えっ?いや、そ……そんなことないっスよ。むしろ先輩こそ相変わらずよく喋るっつーか」
「ぐ…っ!そりゃ橘くんに比べりゃわたしのがずっとおしゃべりだけどさ、せっかく褒めてるのにその言い草はないんじゃないの?」
「ハハ、すんません」
こんなふうに男友達でもない相手とくだらないやりとりをしながら歩く時間が心地良いと、そう思う日がくるなんて剣之介は思ってもみなかった。
なにより自分がこういう感情を抱く日が来るなんてこれっぽっちも想像していなかった。
姉たちにからかわれて、からかわれたという事実がなんとなく恥ずかしくて、その時も自分の耳はこうなったけど。
「……ていうかそもそも、観にこないでくれって言いませんでしたっけ?」
「う゛っ!!そ、そ、それはそうなんだけど」
「言ったっスよね?」
「ゴメン!!誘惑には抗えなかったというか、足が自然とそちらに向かっていたというか、ようは不可抗力なわけで……って、あれ?」
両手を拝むように合わせていたが何かに気づいて、不思議そうに剣之介の顔を覗きこむように見上げてくる。
「…………?なんスか?」
「橘くん、もしかして照れ屋?」
「は?」
不可解な問いかけに首を傾げれば、は自分の小さな耳を指差していたずらっぽく笑った。
「耳。まっ赤だよ」
「っ!!こ、これは別に……っ!!」
「ふっふっふ、照れてたんだー♪橘くんかーわいいー♪」
「先輩!!」
自分をからかう先輩の、ちょっと意地の悪い笑顔も嫌いじゃないと思ってしまったのは、口が裂けても言えない秘密だ。
< 橘剣之介で10のお題 >
02.バスケ
実はここ数日ネットに繋いでいなくて、数日ぶりに見たらサーチのおかげでカウンターがおそろしく回っていたので
大慌てで書いた話なのは秘密です。って言ってる時点ですでに秘密でもなんでもないのですが。
若は普段の雰囲気的には主人公と同学年か、むしろ年上っぽかったりするのに
からかわれたりへこんだりした時に不意に年下に戻る瞬間がたまりません。
そういう日常の空気が書けてる、かな?