昼飯を食い終わった教室で数人のクラスメートと他愛もない話に興じていた時、廊下側の窓の向こうを
数人の生徒が教科書と筆記用具一式を手にして歩いていく姿が目に入った。

(……あ、)

その中の一人がよく知った顔の先輩であることに気がつき、無意識に視線をそちらへと向ける。

きっと午後の授業が移動教室なのだろう。
前を行く二人はその人の友達で、今も三人でかしましく談笑していた。

ついこの間の夏休み、なかば脅迫じみた誘いを受けてしぶしぶ行ったフランスでの様子を思い出し、仲が良いなと微笑ましくなる。

(親友ってヤツだよな。先輩の見た目が変わっても気にしてねぇし)

実家の家業を友人たちにはどうしても話せないでいる剣之介には、そんな三人がほんの少しだけ羨ましくもあった。

喧騒に包まれた教室の中から、自分の視線に気付かずに通りすぎて行くたちをぼんやりと見送っていた、そのときだ。
不意に後ろから走ってきた男が速度を落として足を止め、ゆっくりとその隣に並んだ。

(……アイツ……)

それはの父親が建てたマンションに住む剣之介が、同階の住人である不良保健医と同じくらい顔を合わせる頻度が高い学園No.2、華原雅紀だった。

(そういや先輩たち、同じクラスだったか)

思い出した事実になぜか胸の内がひやりとする。

別に、何ということはない。同じ学年にいれば、クラスメイトになることはまったくもって不思議でもなんでもない話だろう。
内心の違和感に首を傾げて、自然と寄った眉間にわけのわからない怒りを感じたとき――――――窓ガラスの向こうにいる先輩が、にっこりと笑って手を振った。

(あ。先輩、俺に気づい……)

そのことに湧き上がりそうになった温かい気持ちで口元が綻ぶ前に、傍らで他の二人との会話に興じていた雅紀が、教室に向かって小さくヒラヒラと 手を振っているに気がついてこちらを見た。

そうして学園一爽やかだと評判の笑みを浮かべたその瞬間、

「…………っ」

剣之介はカッと赤面して思いきり窓から顔を背けた。

そっぽを向いた先で視界に映る椅子の背を見つめながら、なにやってんだ俺は、と奥歯を噛む。

(俺は別に、先輩のことなんて、)

 

『先輩』

 

呼び慣れた言葉を心の内で呟き、それからもう一度窓の向こうの先輩を見やった。今にもガラスの端に消えていきそうな姿に俺は苦いものを飲み込んで、教室の中から会釈を返す。


本当は追いかけて自分が彼女の隣を歩きたかったけれど―――――首から下がった水色のネクタイが許しはしないと告げていた。

 

 

 

      < 橘剣之介で10のお題 >

  
01.年 下

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・な、なんか微妙に若が乙女なのはなんでだろう・・・・・・・・・?(汗)
それからせっかく名前変換を付けたというのに、書いてからウチの若は基本「先輩」呼びだということに
気がついた。ああー!お嬢様方ゴメンなさい!!
でも橘くんの「先輩」って呼び方、大好きですよ。