「Haunted Mansion 〜after〜」

 

「おじゃましまーす。相変わらず片付いてるよね、橘君の部屋」

「そっスか?単に物が少ないだけだと思いますけど……」

勧められた座布団に腰を下ろしながらそう言うヒトミに当り障りのない相槌を返しながら、内心で剣之助は思った。

(……押入れだろうがどこだろうが、戸の1つでも開けられたら一発でアウトだけどな……)

流しの下の戸棚には製菓道具一式、上には常温保存が可能な粉やらアーモンドやらの材料が保管されているし、冷蔵庫には
コソコソと買ってきた有名洋菓子店の限定ケーキ、バニラエッセンス等の香料に一人暮しには似つかわしくないほど大量のバターがずらりと並んでいる。

挙句に今ヒトミが座る場所のすぐ後ろにある押入れの中には、言い訳のしようがないほど積み上げられた製菓関係の本に雑誌、有名店の
紹介などを切り抜いたスクラップブック、そして独自に開発した菓子のレシピを記したノートが山になっているのだ。

「先輩、カフェ・オレでいいっスよね」

「あ、うん。ありがとう。そうだ、手伝おうか?」

気を利かせたのであろう言葉に、剣之助は速攻で頭を振る。

「いや大丈夫ですから。座っててください」

先輩に菓子をふるまう時には毎回「姉貴が」と言っている手前、あれらのうち1つでも見られるわけにはいかないのだ。
気持ちはものすごく嬉しいが、いくら先輩でも、やはりまだ見られるのは困る。

「お待たせしました」

1つはカフェ・オレ、1つはブラックのコーヒーが入った大きめのマグカップを2つまとめて片手で持って、もう片方の手には
ケーキ皿を2枚にフォークを2本。 セッティングを終えてダイニングテーブルに置いていたパンプキンパイを持ってくると、ヒトミは盛大な歓声をあげた。

「わっ、ジャック・オウ・ランタンだ!かわいいー♪」

丸型のパイの中央では、パイで象られたハロウィンの代名詞であるカボチャのオバケがケタケタと笑っている。

「いつも思うけど、橘君のお姉さんてお菓子作りすごく上手たよね!」

お兄ちゃんやわたしが作ったんじゃこうはいかないわ〜、と感心しきりの先輩からパンプキンパイに注がれるキラキラとした視線が
剣之助にはなんとも痛かったが、とりあえずナイフを持ってパイを切り分けにかかった。

サク、と軽やかな音がして一切れ分を乗せた皿がヒトミの前に置かれる。

「………どうぞ」

「ん、いっただきまーす!」

ぱく。

大きく口を開けてパンプキンパイを食べたヒトミは次の瞬間、

「おーいーしーいー〜〜〜♪」

うっとりした顔でいまだもぐもぐと動く頬を押さえた。

「ホクホクしたカボチャの食感を残しながらも滑らかな舌触り、自然の甘味を生かしたほどよい甘さ、こっくりとしたバターのコクがまた堪らない!

それにこのパイ生地のさくさく加減も軽くてしつこい感じがしないし、バターの香りが食欲をそそるんだよね―!!

あとはこのカボチャの下のチョコレートが入ったアーモンドクリームが…………って、ご、ゴメン」

あまりの美味しさについつい語りにも熱が入り、剣之助に置いてけぼりを食らわせてしまったことに気が付いて、ヒトミはハッと口を噤んだ。

「?なんであやまるんスか?」

ただただヒトミの批評に聞き入っていた剣之助は不思議そうに尋ねたが、彼の隠れた趣味を知らない彼女に
してみれば、甘いものになどさして興味のない剣之助にはさぞつまらなかっただろうと申し訳ない気持ちだった。

「いやあの、せっかくお姉さんのケーキご馳走してくれたのに、橘君にこんな話して……。ごめんね、つまらなかったでしょ?」

「や、別にそんなことないっスよ。むしろ感心したっつーか……」

むしろとても参考になったので続きももっと聞いていたかったくらいだ。 ―――――とは勿論言えないのだが。

「ああ!?ちょっと橘君、何か誤解しているようだけどわたし別にそんなケーキ魔神じゃないよ!?」

ダイエット始めてからはバイキングとかも涙を飲んでお断りしてるし!と拳を握って力説する姿に剣之助は堪え切れずに吹き出した。

「…っ、なんスか。ケーキ魔神って」

クックッと噛み殺した笑いを漏らしながらからかい混じりの視線を向けてくるのに、フォークを握り締めたヒトミは赤くなる。

「それはーその、つまり、あれだよ。え〜と………んもう、いいの!とにかく、わたしがここのところ食べてるのは

橘君のくれたケーキだけだもん。あとは爽大君がハロウィン新作のカボチャチップスもらっただけで」

「…………………」


「橘君?どしたの、黙り込んじゃって」

わかっている。
先輩は別にこのケーキを俺の作った物だって知ってて言ってるわけじゃない。
けれど―――――それでも。

「橘君?おーい?」

「ホントにそれしか食ってないんスか?」

「え゛っ!?な、な、なに言ってんの食べてないよっ!?」

「……ホントに?」

真っ直ぐな視線にじっと見つめられ、思わず早くなる鼓動につられて、つい。

「えーと、えーと、その、………華原君にチョコもらってー。それから、透君に芋けんぴもらってー。それから、」

指折り続く告白に呆れ返った顔をして剣之助は一言ずばりと言いきった。

 

「先輩………。餌付けされすぎっスよ、それ」

 

「えっ、餌付け〜!?わたしゃ犬かいっ!!」

「言われたくなきゃ俺以外のヤツから菓子なんか貰わないでくださいよ。ウチで食べるケーキだけで我慢できるでしょ?」

「えー……でも、なんか橘君のお姉さんに悪いなぁ。せっかく可愛い弟のために焼いたケーキの上前はねちゃ」

そんなもの、どうってことない。先輩がこうして目の前で幸せそうな顔をしてくれるのならいくらでも―――――は、ダイエットにならないか。

些細な嫉妬には気付かずに、姉が作ったと思い込んでいるパンプキンパイを申し訳なさそうに見下ろすヒトミに向かって、剣之助は笑った。

 

「気にすることないっスよ。俺が、先輩に食べて欲しいんだから」

 

こんなに1人で食いきれねーしもったいないから、と空々しい言い訳をして。

 

 

 

【・E・N・D・】

 

 

 

えー・・・・・・・・・大ウソツキ、参上。(土下座)
10月31日なんてつい先ほど過ぎてしまったわけですが、心はいまだハロウィンさ★

とりあえず許していただければ幸いです。

Trick or Treat !
Happy Halloween !!