「住めば都」

 

 

 

「おーい、芹香ちゃん。飲まないのかい?」
「え……あ、はっ、はい!いただます……っ」

洗練された仕草でグラスにシャンパンを注いでくれる竜崎はいたって上機嫌で、一体何がどうなってこういう状況になったんだか
教えて欲しいんですけど・・・、なんていう彼女の内心はまるで無視したかのようなテーブルの有様のなんとまぁ豪華なことか。

「ちょっと竜崎さ〜ん!今夜の芹香ちゃんのホストはオレでござるよ!」
「はははっ、まぁいいじゃねーか。堅いこと言うなよ玲司。今の俺はお客だぞ」
「お客なら大人しくしててよぉ」
「へいへい。ならお前ももっと気配りしろよ。ほら、芹香ちゃんのグラス空いてるぞ」

ふくれる玲司とあしらいの上手い竜崎の、ほとんど出来の悪い弟と豪気な兄のような会話に芹香は思わず笑ってしまう。

「でもナンバーワンがお客とかっていいんですか?しかも奢りでピンクなんて・・・」
「いいんだよ。そんなこと気にすんなって!これから芹香ちゃんに世話になっちまうんだからさ、その迷惑料の前払いとでも思ってくれよ。な?」

さっき目の前で引っこ抜かれて、今は自分の手にしたグラスに注がれた愛らしい色のシャンパンに
ついそんなことを尋ねてしまうが、当の竜崎は一息にグラスを煽って笑うだけだ。

さすが天下のゴージャスのナンバーワンホスト。
しがない雑誌編集一年目の安月給とは金銭感覚の桁が違った。

 

(………10万円の迷惑料、しかも前払いでポーンと払うなんて、さすが竜崎さん………)

 

―――――それに、今の芹香にはシャンパンよりももっと気になることがある。

 

「……………そういえば竜崎さん。さっきの話ですけど」
「さっきの話って………ああ、引っ越しか?」
「そうです。河合荘に越してくるって、まさか本気で言ってるわけじゃ……」

「本気だぜ?」

「―――ですよね。やっぱり本気で……………って、えええー!?本気だったんですか!?」

あっさり告げれた言葉にうっかり流されそうになった芹香は、耳に入った言葉を反芻して数秒後、ギョッとした顔で横に座った竜崎を振り返った。

「だって竜崎さん、河合荘ですよ?狭いし古いし住んでる人もクセのある人間が多いし」
「……あー、マコトとか香希とかねぇ」
「玲司君も!」
「えぇー、拙者も!?」

 

「とにかくっ」

 

途中で茶々を入れた玲司を一言で黙らせ、

 

「あそこは狭くて狭くてボロくてボロいんですよ………………ッ」


芹香は普段自分が思ってもなるべく口には出さないようにしてきた台詞を竜崎に告げた。

そう、仮にも河合荘は芹香が社会人として暮らす上での自室。お城だ。
それが人様からみたらどんなに狭かろうがどんなにボロかろうが、思っていても自分の口では言いたくない、いや言うまいと、今までは思ってきた。

 

だが、その場所にゴージャスのナンバーワンホストである竜崎が住むというのである。

 

同じアパートにこんなカッコイイ人が住むなんてそりゃあ嬉しい。
嬉しいがしかし、許されるのかといわれたら絶対的に許されない気がするのだ。

とてつもなく。

 

けれど当の竜崎は真面目な顔をしてそう力説した芹香を目を丸くして見た後、精悍な面立ちを崩して遠慮なく噴き出した。

「あっはっはっ!そりゃあ随分凄そうだな。どんなもんだか今から楽しみだ」
「笑い事じゃありませんったら、竜崎さん」

 

「ははは……、そうは言っても俺だって贅沢は言ってられないさ。狭かろうがボロかろうが、今は即入居可ってことの方が重要だからな」

 

いつの間にか玲司は別の指名が入り、客であるはずの竜崎にテーブルを任せて他の客相手に接客中だった。
白いテーブルに並んで置かれた2人分の空になったシャンパングラスへ、竜崎は慣れた仕草でボトルを傾ける。

「………それに」
「それに?なんですか?」

気付かないうちにどれほど杯を重ねたのか、ボトルから最後の一滴が落ちきるのを見届けて、手に取った片方を
小首をかしげて不思議そうにこちらを見つめる芹香に持たせた。

 

からかいたいのか、どこまでが真実か。

そんな判断しがたい気分と共に赤くなる芹香の間近に顔を寄せる。

 

「―――美味い食事付きってのに釣られたのさ」

 

乾杯、と合わせられたグラスの軽やかな音に紛れて竜崎の悪戯っぽい笑いが芹香の耳をくすぐった。

 

 

 

 

 

最後はちょっとだけしっとりムードかな?玲司が消えたせいかしら(笑)
ラスエス2、初書きだったので軽めの雰囲気にしてみました。
というかこの空気感が久しぶりなのでちょっと試運転〜♪