「 Flower 」

 

 

控え目にドアが開いて、貴女がこっそりとやってきた日を覚えてる。

 

「そういえば明里ちゃん、今月お誕生日でしょう?」

さりげなくそう言うと、彼女を見送りに出ていた万里は「えっ」と驚いた声を上げた。

「あれ、そーなの?だったらお祝いしないと」
「いやだ万里さん。永久指名だってしてないのに、そんなことしてもらえませんよ」

途端に明里ちゃんは慌てて首を横に振る。

「今だってわざわざ見送りしてもらってるんだもの。それだけで十分です」
「なーに言ってんの。明里ちゃんだって、オレにとっては大事なお姫さまなんだから、そんなこと気にしなくていいんだよ。ねぇ、店長?」

会計を済ませてレジを閉めた自分に話を振られ、答えようとした矢先にフロアにいた黒服からのヘルプの合図。席はチヒロのテーブルだった。

「ええ、もちろん。その日はちゃんと準備してますから、ゴージャスに来てくださいね」

カウンターから出て体格のいい万里の隣に並び、笑顔でそう答えながら目線だけでチヒロのテーブルを示すと、察しのいい彼はすぐに気がついたらしい。

「さっすが店長、準備がいいよね〜。ってことで明里ちゃんゴメンネ。なんかチヒロがピンチみたいだから、お兄さん行かないと」

拝むように立てた手の影からすまなそうに片目を瞑ってみせる万里に、明里ちゃんは
「いいえ、ありがとうございました。今夜も楽しかったです」と笑ってフロアへ戻っていく万里を見送った。
万里は永久指名こそそれほど多くはないが、ホストの中でも存在感のある男だ。喋り口も見た目に反して穏やかで、そのソフトな人当たりに
幅広い世代のお客様から指名をいただいている。 明里ちゃんも彼のそういう接客が心地良いのか、指名する頻度はそれなりに高かった。

「明里ちゃんの永久指名は万里で決まりですか?」
「え、ええ?なんでそうなるんですか?」

自分でドアを開けようとするのをやんわりと押し止めて店の外へとエスコートすると、ほんの少し頬を染めてこちらを見上げた。

「いやぁ、なんとなくです。それよりも来週、来てくださいね。明里ちゃん」

先ほどチラリとした話をもう一度念押しすると、きょとんとした顔をして、

「来週?」
「お誕生日ですよ。来るでしょう?」
「でもあの、永久指名もしてないし……」
「そんなこと気にしなくて大丈夫ですよ。わたしがお祝いしますから」
「えっ、み、水無月さんが?」

その一言によほどびっくりしたらしい。眼を丸くしてパチパチとしきりに瞬きを繰り返している。
そんな様子に小さく苦笑い、軽く肩を竦めて言った。

「ひどいなぁ。そんなに意外ですか?そういえば昔、明里ちゃんのお誕生日にご招待していただいたことがありましたよねえ」

あれはたしか明里ちゃんが高校に上がったばかりの頃だ。
社長から家に呼ばれて、その日がたまたま明里ちゃんの誕生日だと聞いたのを覚えていた。
そんな日にお邪魔してしまうのだからと、せめてものお詫びに誕生日プレゼントを持参したのは忘れ難い思い出だ。
明里ちゃんもそのことを覚えていたらしい。

「あのとき貰ったテディ・ベア、ものすごくかわいくて」

そう言って、クスクスと楽しそうに笑った。

「どんな顔して選んでくれたのかなぁって……ふふ」
「あはは。それは企業秘密ってことで、お願いします」

それじゃあまた、と御辞儀をしてネオンの街に消えてゆく華奢な後ろ姿を見送り、それから水無月はふーっと1つ大きな溜息をついた。

 

 

「なぁなぁ店長、この花束なんかえっれぇゴーカじゃん?」

開店前のバックヤードに置かれていた大きな箱を覗きこみ、感嘆の声をあげたのはやってきたばかりの炎樹だ。

「誕生日の客にやるプレゼントだろ?前のはもーちょいランク下のヤツだったよな、バラ」

保冷剤の入った箱の中には、どこか大人びた風格のワインレッドのバラが、一抱えはあろうかという花束にされている。

「もうテディ・ベアって歳じゃありませんからねぇ」
「はぁ?」

 

独り言のようなその言葉に首を傾げる炎樹の派手なスーツの背中をぽんと叩き、水無月はいつもと同じようににっこり笑ってフロアへと出ていった。

 

 

 

 

 

 

今日はいよいよ店長攻略が追加された追加ディスクの発売日ですね!!!
どんなことをしてもプレイする前に妄想を一度カタチに、と決意していたのでがんばって書きました。
ええ夏コミ原稿そっちのけで・・・・・・(遠い眼)

プレイ後にまた水無月さんに関しては書くと思いますのでお楽しみに。
っていうかあのオーナーEDは水無月×明里だと信じて疑っていなかったワタシ(笑)
きっとオーナーと2人っきりで打ち合わせとかいって食事したりお茶したりホテル行ったり(←え?)してるんだ。うんそうだ。
水無月さんは意外とむっつりな気がしてなりません。いや好きですから。好きですからね!?
シャンパンコールとかも一番好きだったなー、そういや。

えー、追加ディスク、楽しみです。