こんなはずじゃなかった、と。
俺がまず思ったのは、そんな完全犯罪の破綻した真犯人みたいな台詞だった。



     
■ broken ■



あの日から、三日が経っていた。
ゴージャスでの収録を終えてそのまま部屋に帰り、倒れ込むようにベッドに沈む。

(……あいつ……今日も、来なかった)

しこたま酒を飲んだ頭でぼんやりとそんなことを考える。
どうしたんだろ、と思考を巡らせたところで自分と同じようにベッドの上に投げ出された携帯電話を視界に留めて、思い出す。

  『そんなことのために私を利用したんですか?あれは、嘘だったの?』

(……………バカか俺は。来るワケねーじゃん)

当たり前だ。どこの世界に自分を騙した男の元へのこのことやってくる女がいるというのか。
いるわけがない。いたら怖ェだろ。

つーか―――――むしろ、俺が怖いんだ。あいつに会うの。

  『全部、全部嘘だったんですね!?好きって言ってくれたのも、永久指名のことだって!
   ……ありもしない夢を見ていた私がバカだっただけですか』

ついこの間までみたいに隣りに座って肩を抱いたり、酒作ってやったりなんて、多分できない。
今まで上手く芝居をして騙していた。すべては仕事を円滑に、滞りなくやってのけるために必要だったから、明里を相手に演技をしていた。

気のある素振り。思わせぶりな言葉。口説き文句。
彼女に向けたものはすべて、嘘だった。

赤くなったり青くなったり、困ったり、照れたり。
彼女が見せた素直な感情は、本物だった。本気で、微笑ましくなるくらい本物だった。

だから言い訳になるけれど、本物は本物のまま終わらせるつもりだったんだ、俺は。

(バレるわきゃねえ、ってタカくくってたもんな)

俺は、役者だから。
演技をする以上、それはリアルにならなければアウトだ。
けれどそれは俺だけのルールであって明里にはなんの関係もない。
こちらの都合で振り回してしまうなら、せめて真実は見せないまま終わらせることが礼儀だったはずだ。

  『比べる必要なんかないって、そう言ってくれたのはあなただったけど…』

無機質な白い蛍光灯の灯を眺めながら思い出すのは、泣きそうな顔。

  『……もういいです。一人で舞い上がって勝手に自信なんかつけて……覚悟していたはずなのに、ごめんなさい。
   ちょっと考えればわかったはずでした。少しの間だったけど、楽しかった』

いつ零れるかというほどに大粒の涙で潤んだ瞳が、街のネオンを反射してキラキラと光っていたのを思い出す。
泣かれて、騙していたことを罵られ、ただ詰られただけなら―――――それなら多分こんな気持ちにはならなかった。
バレた時の修羅場なんて覚悟してたし、予想もしてた。

だから。

  『さよなら、九神さん』

ポロリと零れ落ちた真珠のような涙と、せつなげな微笑みが頭から離れない。

バレて、開き直ったのは俺だよな?
んでもって騙してたのも俺で。
もーいいやと思ったのも俺のはずだろ?
なのに明里のあの態度はなんなんだよ。普通捨てられた女ってのはもっと縋ったり粘ったりするもんなんじゃねぇの?

頭ん中でまとまらない考えがグルグル渦を巻いていて、けれどネオンの海に飲み込まれていった彼女の背中はとうに見えなくなっていた。
ただ、手のひらに残された鎖の冷たい感触だけが決別を告げていて。

  『私が持っていていいものじゃないから、お返しします』

あの夜以来、ベッドサイドに置きっぱなしになっているブレスレット。

「………これ、マジでどーゆーコトなんだよ………?」

部屋の灯りを反射しながら淡く輝く真珠をぼんやりと眺めて俺は溜息とともにそう呟いた。

 

 

 

ラスエス初書きです。いい意味で二転三転した彼のシナリオはネタが満載だと思うのは私だけですか。そうですか。(一人納得)
ゲーム内でのこのシーン、明里ちゃんが妙にあっさりしてて炎樹の後半の動揺ぶりが際立ってましたよねー・・・
なので、絶対グルグルしてたんじゃないかな、とこんな話を書いてみました。