Happy happy,holy morning

 

 

ふと目が覚めて、虚ろな意識のままベッドサイドの時計を見る。
針の位置は長針が8、短針が11の少し手前。 大きく切り取られた窓からカーテン越しに差し込む太陽の光に、それが朝であることを知った。

(そうだ……昨日は、仕事…だった……けど、)

本業の高校生は目下のところ冬期休業中。日が沈むまで眠ったところで、誰に咎められることもない。
―――夜になればまた、店に行かなくてはならないけれど。

もう一眠りしようと思い、身じろぎをしようとしたところで、ようやくチヒロは左腕の違和感に気が付いて、そちらへゆっくりと視線を向けた。
そうして重かった瞼はゆっくりと瞬きをし、やわらかく細められる。

(……おれ、昨夜は……明里さん、と……)

深い眠りに落ちているのか、規則的な寝息をその小さな唇から漏らしながら傍らで眠る明里をしばらく
見つめて、チヒロは彼女の寝乱れて頬にかかった髪をそっと払った。

………無理を、させたのかもしれない。
店が引ける夜明けまで自分を待っていてくれた明里を部屋に連れ込んで、なかば強引に事に及んだ。
告白と同時に押し倒すなんて、我に返ってみればフラれなかったことが奇跡のように思えてくる。

ホストと、客。

出会ってから半年以上経つ。自分が彼女に恋心を抱くようになったのは、初めて席に着いてから三月と経たない間のことだ。
永久指名をしてくれて、今もってナンバーワンでいられるのも明里の力が大きい。
それだけに、いくら同伴やアフターを共にしても、その関係から一歩を踏み出す勇気が持てなかった。

もしも明里が、ホストと客の擬似恋愛しか、自分に求めていなかったら。

そうであればチヒロの、胸を焦がすほどの恋心など迷惑でしかない。
彼女に嫌われたら。ホストと客の関係すら壊れてしまったら―――――それが、チヒロには怖かった。 けれど。

ソファに彼女を縫い止めて、キスを迫った自分を、明里は受け入れてくれた。
ゆっくりと瞳を閉じた彼女とその桜色の感触を思い出すだけで、ひどく甘い感慨がチヒロの胸に広がる。

(…でも、今…考えると、子どもっぽかった……かも。…おれ)

自分の想いを受け止めて欲しくて、同じ気持ちを返して欲しくて、性急になりすぎていた気がする。
………その結果として今、こんなふうに明里とベッドを共にしていると思えば、子どもで良かったとも思えるけれど。

「……ん……」

チヒロの左腕を枕にしていた明里が小さく身震いをして、すり、と胸にすり寄ってきた。
昨夜(と言っても明け方だか)は情事のあと、シャワーを浴びる余裕もなく布団と毛布だけを掛けてそのまま眠り込んでしまった
ために、二人とも何も身に着けていない。とりあえず風邪を引かないようにエアコンだけはタイマーをかけて自動的に切れるようにはしておいたが、
逆にスイッチが入るように設定するほどには頭が回っていなかった。

冬の朝に裸で布団に入っているのでは、寒い。
ベッドサイドに手を伸ばしてエアコンのスイッチを入れ、チヒロは少しでも温かくなるようにと明里の体をそっと抱き寄せた。

(……明里さん……好き。………大好き)

心の中で何度もそう呟きながら小さく首を傾けて、やわらかな彼女の髪にくちづける。
しばらくして閉じられていた明里の瞼がかすかに震え、数度瞬きをした後彼女は焦点の合わない目で、ぼんやりとチヒロを見た。
そんな様子がかわいくて、チヒロはくすりと笑いながらもう一度明里の髪にキスをする。

「……おはよう、明里さん……」

「……ん……チヒロさん……?」

「うん…。もう朝、だけど……まだ、寝てて……いいよ……?」

アルバイトは入っていないと言っていたから、心配はいらないはずだ。そんな意味で口にした言葉に、そういえば、とチヒロは明里を見る。

「……明里さん……体、平気……?」

「え……からだ?」

一瞬なんのことかとポカンとした明里だったが、すぐに彼が言わんとしていることを悟ったらしい。
あっという間に赤くなって俯いてしまった。……が、すぐに顔を上げて今度は反対側を向く。おそらく布団の中の自分たちの姿を目にしてしまったせいだろう。

「だ…っ、大丈夫……!」

「……ほんとに……?…女の人は、初めてだと、翌日辛いって…。明里さん、無理、してない…?」

心配で、じっと見つめる。そんな彼の内心を察したのか、明里は真っ赤な顔をちょっとだけこちらに向けて、上目遣いにチヒロを見上げた。
……どうしよう。明里さん、すごく可愛い……。

「ほ、ほんとに大丈夫よ。……まだ、ちょっと痛い気もするけど……そんなに酷くないから」

「うん……よかった」

ほっとして、笑う。 外も中も、彼女の全部が欲しくて、そして与えられた幸福を噛み締めながら、チヒロは笑った。
そんな彼の笑顔を見るや、恥ずかしさがぶり返してきたのか明里は再び背を向けて、わざとらしく寝息を立て始める。
チヒロにもそれはわかっていたけれど、その恥じらう姿の愛らしさに、ただ右腕を伸ばして背中から彼女を抱きしめて、ふたたび訪れた睡魔に
ゆらゆらと意識が揺れた。

「……明里さん、好き……大好き」

腕、痺れて感覚ない、けど……明里さんのこと、離したくないから………がまん、する。

 

がんばれ、おれ。

 

 

 

ようやくあがりました。初拍手御礼にて藤谷 茉莉華様に差し上げた2000ヒットキリリクです。

お題は「チヒロのクリスマス告白後の話」ということで、こんな感じに。
実は告白後の話ってもしやあの最中のことでスか・・・!?(汗)とか判断に迷ったんですが、とりあえず今回は
そのあとのお話、ということでチヒロの独白&ピロートークに。
や、あっちの話がイイと言うんであればそれはそれでまたリクエストください。
がんばりますので(笑)。

それでは藤谷様拍手&リクエストありがとうございました。
拙作の上、長い間お待たせいたしましたが、お納めくださいませ♪