「 ダブル・トラブル 」

 

 

あの。

あの姉貴がホストクラブ通い。

 

「……………はー…………いまっっっだに、信じらんねぇ」

昨夜唐突に発覚した姉の秘密の衝撃は大きく、和希は翌朝になってもまだ思い出すだに信じらんねぇを繰り返していた。
たった今も学校で自分の席に着き、窓の外でスカッと晴れ渡る空を見ながら本日八度目の「信じらんねぇ」を呟いたところだ。

その時、和希の目の前の椅子がガタリと引かれて、これまた彼の頭を悩ませてくれるもう一方の元凶が姿を現す。

「……おはよう……信じられないって、何が……?」
「おす。っつーかなー、お前もだよ。信じらんねぇ。オレの回りの常識はドコ行っちまったわけ!?」
「…………………さぁ…?」

おっとりというかマイペースというか、どこか人よりもテンポの遅い友人は癖のない黒髪をサラリと揺らして首を傾げた。

「……家のこと……?」
「そーなんだよ…………つーか、あーもうホント信じらんねえ。
クラブどころか夜遊びもしたことない真面目一辺倒の姉貴が、そこらへん全部すっ飛ばしていきなりホストクラブ通いだぜ?」
「………え………」

これにはさすがの雅也も驚いたのか、体ごとこちらを向いて椅子に座りながらビックリしたように目を見張って和希を見ている。

「でも、和希の姉さんって……・たしか……」
「弱気というか内気というか。ま、とりあえず男に免疫はないタイプ」

それだけに、どうして姉がいきなりホストクラブになぞ行く気になったのか、そこのところが弟としてはまったくもって謎だった。
しかも、問題はそれだけではない。

和希は盛大に溜息をついた。

「大体さぁ、姉貴のヤツ、よりによって親父の店に行ってんだぜ?」

これには雅也も目を丸くする。

「え……っ、…………ウチ?」
「そう。雅也お前姉貴に面が割れてないとはいえ気を付けろよ」

気を付けろと言われても、雅也とていつも和希の話に出てくるから聞き知っているだけで、写真すら見たことがないのだ。

「おれ……見たこと、ないけど……」
「あ、そっか。んー、たしかこないだ撮った写メが―――――お、あったあった。これ!」

和希が無造作にポケットから取り出した携帯電話の液晶画面に写っていたのは、

「………あ………!」

店に出た初日、一番最初に自分を指名してくれたひと。

慣れない自分を気遣うようにほほ笑みかけてくれた、その柔らかな表情に生まれて初めて心が騒いだのは、まだ記憶に新しい。
そういえば、ずっと忘れていたけれど和希の姉の名は明里だった。

「十人並の平凡な顔してるだろ?化粧でもバッチリきめりゃ大分違うんだろうけど、なーんか興味ないみたいなんだよな。取り柄といえば手先が器用なことくらいのもんで」

つらつらと姉の評価を並べ立てている和希の手元をジッと見つめたまま、液晶の中でピースをして朗らかに笑う彼女の姿に
いつかは自分にもこんな笑顔を向けてくれる日が来るのだろうかと雅也は思った。

弟みたいだと、思われるのは困るんだけれども。

「…………でも、」
「ん?」

何気なく、昨夜の帰り際に握った細い指先を思い出し、雅也は赤くなる。

「……………やさしい人………だと、思うけど」
「そうかぁ?オレには全然……――――――って、ハァ!?なんでンなこと知ってんだよ雅也!!あっ、まさか!?」

笑顔から驚愕に変わり、ついには知ってはならぬことを知ってしまったとばかりに、ワナワナと震える指先で親友を指差して和希は言った。

「まさか姉貴、お前の客かよ!?」
「…………うん。そう」

まだ、永久指名はしてくれてないけど。と続けた雅也の言葉は、けれど和希の耳に届くことはなく。

 

「嘘だろ!?信じらんねえー!!!」

 

本日通算11度目の絶叫が、朝陽の差し込む清々しい教室にこだましたのだった。

 

 

 

 

ついに始動しました「和希のびんぼうくじ」シリーズ。
チヒロルートだと要所要所で絡んでくる弟の視点からストーリーの裏側を書いたら面白いだろうなー、と思っていたら
オフィシャルの追加ディスクでやられてしまうようなので、今のうちに(笑)。
順を追って書いて行くつもりなので、まぁ、だんだん和希の貧乏クジの度合いも増していく、と。お楽しみに♪