◆あれや、これや◇

 

 

「それにしてもなぁ、もう少し自由にさせてやってもいいんじゃないか?」

 

会津藩邸での御用を済ませた帰り道。
唐突に言われた近藤の言葉に、土方はまたその話かと溜息を吐いた。そうしてからわざとらしく知らぬ振りを決め込み、

 

「そりゃあなんの話だぁ、近藤さん?」

「トシ〜……それはさすがに大人気ないぞ、お前」

 

そんな苦言すらどこ吹く風、役者絵のように整った横顔は近藤を一瞥するでもなかったが、気にしたふうもなく町中を歩きながら話を続ける。

 

「俺が言ってるのは雪村君のことだよ。いい加減彼女の行動を必要以上に制限するのはやめにしたらどうだ?」

「必要以上になんてしてねぇだろ。手伝いがしたいと言やぁさせ、小太刀の稽古がしたいと言やぁさせ。十分すぎるだろうが」

「だがそれもお前の許可がなければできんのだろう?外出は今の状況では危険が多すぎるから無理だとしても、せめて
 屯所の中でくらいは自由にさせてやってくれんか」

「それで?うっかり平隊士共に女だってばれたらどうすんだよ?」

「し、しかしだな。女子の身で四六時中男に監視される日々が半年近くも続いたのでは……」

「そうでなくても屯所の中にゃ部外者が見ても聞いても不味いもんがあれこれある」

「う……っ、それは……」

「なのに、だ。自由にさせて監視の眼もない状況で、万が一でもあいつが余計な何かを見聞きしちまったら―――。

 近藤さん、あんたがあいつを処断するんだぜ?」

 

できるのか、とは。

敢えて土方は聞かなかった。それは聞く必要がなかったし、端から聞こうとも思わない。

 

暫くして何かを吹っ切るように一つ溜息を吐いた。
そうして隣りを歩く男を見やる。

 

その横顔は何とも言い難い表情を浮かべ、引き結んだ口元を堪えるように頑なに閉じていた。

けれどそれきり、互いに黙したまま屯所へと続く道をただ歩く。

 

やがて行き交う人向こうに、小さな間口の店を見つけて、ふと土方は足を止めた。

視線の先には軒先に掛けられた「団子あります」の文字。

 

……………たしか、甘いものは嫌いではないはすだ。

 

「悪い。ちょっと先に行っててくれ」

「ん―――?ああ、わかった」

「すぐに追いつくからよ」

 

素直に頷くと、土方は少しだけばつの悪そうな顔をして暖簾をくぐった。
そんな後姿を見送って近藤はすぐにまたゆっくりと歩き出す。

血も涙もない鬼副長と呼ばれてはいても、歳三とて人の子だ。
自身にはなんの罪科もない年端もいかぬ女子を、自分たちの都合で処断することを心からよしとするはずはない。

 

常に最後の時まで最善を尽くす―――――それが新選組副長だ。

 

「やれやれ。まったく………損な役回りだなぁトシも」

 

一体どんな顔で彼女に団子を渡すのだろうと、そんなことを想像しながら近藤はひとり苦笑を浮かべた。

 

 

 

 

ご存知の通り、土方ルートは恋愛モードに入るのがかなり終盤なので、京都時代は
なかなかラブな展開は難しい。むしろよくて妹分みたいな感じ・・・・・・?
だから近藤さんと土方さんが話しているとどうも「邪険にしつつ過保護な兄」と「やさしい父」に。

そんな想像から普段の扱いは結構ぞんざいだったりするのに、何かにつけて
こっそり気に掛けていたりしたらいいなぁという妄想を。

できればそのうち、団子のその後を書いてみたいです(笑)