◆ 花を肴に飲む酒も ◇
それはまだ初花も盛りの昼日中。
玄関前を通りかかった千鶴は見知った後姿を見つけて声をかけた。
「あれ、永倉さん。どこかへお出かけですか?」
「う゛!!……ち、千鶴ちゃん」
なぜだか一瞬ぎくりと固まった新八に気付いた様子もなく、相も変わらず少年の姿で
きっちりと袴を着込んだ千鶴は、抱えていた花材の影から顔を覗かせるようにしてにこにことこちらを見ている。
「えぇと、まあ……、俺ぁ今日は非番だからよ。ちょいとな」
前にもあったことだが、さすがに年頃の女の子の前で「島原に行く」とはおおっぴらに言い難く、曖昧に誤魔化そうとしたものの、状況からピンときたらしい。
「…………………………あ。ああ、なるほど」
しばらくの間を置いて、うっすらと頬を染めながら千鶴は困ったように視線を彷徨わせて頷いた。
そんな様子を見てしまうと新八のほうもつられて照れ臭くなってしまい、ついあらぬ方向に視線を逸らして頭を掻く。
さて参った―――――。
左之助でもいればいつもみたいに上手く話を逸らしてくれるんだろうが生憎と今は自分ひとりだ。
かといって大の男が言い訳するほどのことでもなし、さりとてそのまま千鶴と島原の話をするわけにもいかない。
何かないかと視線を巡らせたところで、新八はようやく千鶴の抱えていた物に気がついた。
「そういやあどうしたんだ?そんな大荷物抱えて」
「え?あ、これですか?実は珍しく土方さんから頼まれまして、これから床の間に花を生けるんです」
「へぇ、生け花の心得まであるのか。やっぱり女の子だな」
そんなことを言ってひとしきり笑ったあと。ふと思い立ったように、新八はつっかけていた履物を脱いだ。
それを見て千鶴が不思議そうにその大きな目を丸くする。
「あの……永倉さん?島原に行かれるんじゃなかったんですか?」
「そのつもりだったんだけどな。ま、たまには花でも眺めながら飲むのもいいかと思ってよ」
高い位置で一つに括った黒髪が、ことりと傾げられた細く白い首筋をさらりと撫でる。
「でも花っていっても、お正月ですから梅くらいですよ?」
島原の花魁さんのほうがよほど華やかなんじゃあ、と気遣わしげに言う千鶴の肩を軽く叩いて「いいじゃねえか」と新八は笑った。
「梅だって花は花だしよ。花を愛でつつ酒を嗜む、ってのも風流だろ?」
丸みを帯びた頬の輪郭も、雰囲気のやわらかさも。
ふんわりとしたその姿はまさに花そのもので、できはしないと判っていても、こんな時くらい男装なぞやめて華やかな着物の一枚も着せてやりたいと
思ってしまう。
それが無理でもせめて女の子らしく華道に勤しむ姿を見られるならば、さぞかし美味い酒が飲めるだろう。
「それじゃあ先にお酒の用意してきましょうか」
「今日は陽気もいいし、温燗であったまるかな。たまにゃ千鶴ちゃんもどうだい?」
「え、遠慮しておきます。飲めないし。私はお酌だけで……」
「ま、ま、そう言わずにさ。お猪口に一口だけでも飲んでみなって。何かあっても責任持ってこの永倉新八が面倒見てやっから!」
まずは花材を置いて来ようとそんなことを話しながら奥の広間に向かう途中、
「新八〜。だぁれが責任持って面倒見てやるって?」
「うわ、新八っつぁん。こいつに何する気だよ?サイテー!」
角の部屋から揃って顔を覗かせた左之助と平助が口々に新八を非難する。
「馬鹿、平助!俺が何するってんだ、てめぇ!?」
「千鶴も女の子に酒飲ませて酔わせようなんて奴の近くにいない方がいいぞ?」
「つーか左之!どさくさに紛れて割り込むなっ!でもって平助は俺を罵った罰だ、広間に酒持ってこい!!」
「えー!?新八っつぁん横ー暴ー!!」
そして風流とはほど遠く。
結局いつもと同じように、千鶴を囲んで大騒ぎをする羽目になったのだが……それで花のように綻ぶ笑顔が見られたのだから、なんら文句は
ない新八であった。
初めて書いた薄桜鬼のメイン相手が新八ってどうなの自分……と思いつつ。
まぁ結局は左之と平助も出てきたので、やっぱりこのトリオが好きだなぁ、と(笑)
でも新八っつぁんは本当に攻略キャラにして欲しかったです!
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