◆ 一目瞭然 ◇

 

 

「原田さん、いらっしゃいますか?」

「おう」

 

開け放たれた障子の陰からそっと顔を覗かせた千鶴は、失礼しますとことわって部屋に入る。
そうして抱えていたものをそっと畳の上に置いた。

 

「これ、お洗濯が終わった稽古着です」

「悪いな。嫁入り前の娘に汗臭い汚れ物の洗濯なんてさせちまって」

 

きちんと畳まれた筒袖の稽古着に、つい申し訳ない気持ちになったのだろう。
苦笑いを浮かべる左之助に千鶴は笑って首を振った。

 

「そんなことありません。父様を探す以外のことでお役に立てることは少ないですし、このくらいはやらないと」

「そんなに気負うなって。ま、俺としてはおまえみたいに可愛い女の子が洗濯してくれた、ってことが嬉しいからいいんだけどな」

「えっ、えっと、あの………お粗末さまです」

 

礼を言いながら清潔になった稽古着を手に微笑まれ、自然と頬が赤くなる。
普段があまりそういう扱いを表立って受けることが稀になってしまったせいか、面と向かってそんなふうに言われるとどうにも照れてしまうのだ。

ふと半年近くも前の出来事を思い出して、千鶴は不思議そうに胡坐を掻いて自分の正面に座っている左之助を見た。

 

「そういえば、原田さんは最初から私が女だってわかってたんですよね?」

「なんだ、急に。カマかけたってあの時言ったろ?ただの勘だよ、勘」

「……それってある意味一目瞭然だったってことですよね……」

「ま、そうとも言うな」

 

至極あっさりと肯定されて、一応それなりに自信のあった千鶴はちょっとだけへこむ。

 

「うー………どこで判ったんですか?」

 

少しだけ悔しそうな表情をしていたかと思うと、正座のままズイと身を乗り出してそう尋ねた。
問われた左之助はがっしりとした膝に頬杖をついてうーんと唸る。

 

「見た目、仕草、声の感じ……」

 

指折り挙げられる原因はどれも一朝一夕に直せるものではなく、千鶴はがっくりとうなだれた。

 

「原田さん………それ、全部ですか」

 

つられて垂れた一つ括りの黒髪から雪のように白い首筋が覗き、それを見た左之助は内心でこっそりと苦笑する。
本人はわかっていないのかもしれないが、千鶴の何気ない仕草一つに時折滲む、少女らしい淡い色香は
いくら隠そうと思っても隠しきれるものではない。

けれどそんなことはおくびにも出さず、左之助は続けた。

 

「おう、全部だ。けど―――そうだな、やっぱりどれってんじゃなしに、まぁ全体的にやわらかいっつーか」

「うう……もういいです。全然参考にならないし」

「別にいいじゃねえか、誰でもわかるってわけじゃないし。現に新八とか平助は気付いてなかっただろ?」

「それはそうですけど、斉藤さんとか土方さんはわかってましたよね?」

「大丈夫だって。そんなに心配しなくても、そう簡単にばれやしないさ」

 

あの二人のように敏い人間が平隊士の中にそう何人もいるとは思えないのだが、千鶴は万が一のことを心配しているのだろう。
もしばれたとしも何らかの弊害が出るのは新選組であって、彼女自身ではない。多少緩んではいても監視は相変わらず
続いているから、有事の際に損害を被るのはやはり新選組の側だ。

おそらくそんなことは本人もわかっているだろうに、それでも彼女はばれないようにできる限りの努力をする。

千鶴は少し口を尖らせて、上目遣いに左之助を見上げた。

 

「とりあえず、これからはさっきみたいのはなしでお願いします」

 

思えば初めからなのだが、新選組内では男装をし少年として過ごしている千鶴を、左之助はことあるごとに女の子扱いした。

 

「さっきみたいの?」

「だから………か、可愛い、とか」

 

自分で言うのもおこがましいのは百も承知ですが、などと口の中でもごもご呟きながら
だんだんと赤くなるその顔を見つめたまま、左之助は口の端に浮かべた笑みを深くする。

 

「そりゃあ無理だ」

「………なんでですか?」

 

なんとなく拗ねたその口ぶりに、左之助はわざとらしくニヤリと笑ってみせた。

 

「俺は嘘が吐けないからさ」

 

 

 

 

旦那にするなら絶っっっ対、左之助!!!……と思いました。新八もいいけど。
とにかく左之の女の子扱いにすごく照れてしまった記念みたいな感じで。