◇◆  秋 と い え ば 〜 食 欲 の 秋 編 〜  ◆◇◆

 

 

制服が冬服になって、最初はブレザーを着ているとまだ汗ばむほどだった陽気も、今はもうちょうどよくなってしまった。

 

「秋は美味しい食べ物が多いよね」

 

2人から少し遅れて歩いていた透子がそう言うと、半歩先にいた琉夏が嬉しそうに振り返る。

 

「秋はご飯がおいしい季節だ」

「スイーツもおいしいよね!」

「食いモンだけかよ…」

 

呆れる琥一を無視して琉夏は楽しそうにそんな兄を指差した。

 

「よし、コウ。秋といえば?」

「はぁ?なんだ急に」

「いいから。ほら、秋といえば?」

 

唐突なご指名に不機嫌な声を出したものの、有無を言わせない雰囲気に琥一は仕方なく弟の遊びに付き合うことにする。

 

「あー……あれだ、マツタケ」

「ええ、栗でしょ。やっぱり」

「いや。モンブラン!」

「なんだよ、だったら芋だろ?」

「それならかぼちゃだよー」

「パンプキンプリン!」

 

どうやっても甘いものから離れようとしない琉夏に、琥一が顔をしかめて振り返った。

 

「テメェはさっきっから甘いもんばっか……ならサンマだ。これでどうよ?」

「うーん、じゃあナスかな」

「スイートポテト!!」

「………パス。聞いてるだけで胸焼けがしてきた」

 

透子の気遣いなどどこ吹く風で我が道を行く弟に、琥一は盛大な溜息とともにそう呻く。
すると透子がそうかなぁと首を傾げてこう言った。

 

「むしろ話してたら食べたくなっちきちゃったけど」

「そうだ、これから行っちゃう?」

「やめろ。頼むからやめろ。こっちゃ聞いただけでもう十分だ」

 

調子に乗った琉夏に、懐具合がどうとかよりも自分の精神的ダメージを想像して、琥一は間髪入れずにその提案を却下する。
まさかそこまでダメだとは思っていなかったらしい透子は驚いた声を上げた。

 

「ええ?そんなに?」

「フッ、軟弱者め」

「ああ?なんだとコラ?」

 

ニヤリとわざとらしい笑みを浮かべた弟の挑発に兄が低い声を出したとき、

『……いしやぁ〜きいも、やきいも〜……』

と音質の悪い声が聞こえてくる。出所に目をやれば、ちょうど道の向こう側からこちらにトロトロと走ってくる軽トラックがいた。
気がついてみればたしかに、焼き芋のいい匂いがしてくる。

途端に透子がいいことを思いついたとばかりに目を輝かせた。

 

「そうだ、あれならコウくんもたべられるよね?ちょっと待ってて」

「オイ透子」

 

引き止めようと声を掛ければ、何を思ったのか兄弟の方を振り返りながらVサインをしてみせる。

 

「大丈夫大丈夫、おごってあげる!」

「バカ、割り勘だ」

 

いつもあんまり金がない金がないと愚痴っているせいなのか、そっちの心配をしていると思われたらしい。
女の透子に奢ってもらうなんて男としてのプライドが許さず反射的にそう叫ぶと、手を振ってそのまま走っていく透子の後ろで琥一は琉夏と顔を突き合わせた。

 

「おいルカ、いくらある?」

「えっと……あ、ヤベ。百円」

 

自分のポケットにある小銭と合わせてもトラックに掲げられた値段ではギリギリだ。
軽く舌打ちして琥一は言った。

 

「しゃあねぇな――――値切れ」

「ラジャー!」

 

ビシッと敬礼をきめて、琉夏は勢いよく走り出す。
そんな弟を見送ってから小さく一息ついた後、兄はゆっくりと屋台で楽しげに笑う2人を追った。

 

 

秋といえば食欲の秋、という即決がなんとなく琉夏らしいかなと書き始めました。
3人でじゃれているとどうしても琥一がお兄ちゃんポジションになってしまう……。
まぁ間違っても弟っつー立場にならないからなぁ。

そしてオカンではあってもオトンではない(笑)